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October 13, 2008

ダニ・カラヴァン展 / dani karavan

世田谷美術館で開催されている「ダニ・カラヴァン」展(2008年9月2日 -10月21日)に行ってきました。テル・アヴィヴ美術館(イスラエル・テル=アヴィヴ)とマルティン・グロピウス・バウ(ドイツ・ベルリン)を巡回してきた回顧展です。カラヴァンが展示のデザインも手がけ、美術館の空間にあわせたインスタレーションが観られます。また、世界初公開となる初期のテンペラ画や挿絵、壁画や舞台美術資料、レリーフや彫刻など、代表的な環境造形の制作に至るまでの過程を丹念にたどることができます。世界各地で実現した恒久設置作品や一過性のプロジェクトが模型や映像資料とともに堪能できるので、カラヴァンの仕事をあまり知らない人でも全貌を知る良い機会だと思います。

カラヴァンの環境造形といえば、石、柱、レールといったユダヤという出自にまつわる歴史や文化的な背景とその暗喩を含みます。しかし、単にモニュメンタルな彫刻を制作している訳ではなく、なによりも体験のためのプロセスということが重要な作家です。恒久的な作品では、その体験プロセスそのものが強い象徴性をもち、ときに困難な歴史的重さ、ソリッドなイメージがありますが、この展覧会では砂、足跡、映像といった一過性のモチーフを使い、その会場ならではのインスタレーションを試みています。そのため、象徴性以上に体験そのものの微妙な組み立てを感じることができます。写真や映像でみる限り、回顧展とはいえイスラエルとドイツでも会場にあわせたインスタレーションを制作しており、同じように砂などを使っていても随分と空気が違うように思えました。インスタレーションの規模もあちらの方が大きいようですし(なんか全ての会場を体験してみたかったです。)

なによりも興味深かったのは、初期のテンペラ画にはじまり、壁画や舞台美術資料にみられるカラヴァンのバックボーン。絵の非常にうまい人なのですね!テンペラ画の色彩はクレーの絵のようです。環境造形にみられる絵画的な立体性や体験の組み立て方というものが、これらの基礎に成り立っているとは、とても納得いくことであり、数々の代表作にいたる思考・制作のプロセスをまるで可視化しているようでした。彼の作品をみるといつも同時にルイス・カーンを思い出すのですが、今回のレリーフ、壁画などのプロセスをみると、なんだかイサム・ノグチにもつうずるものがあるなと思いました。展覧会カタログによると、実際にカーンにもノグチにも影響を受けたそうで、とくにノグチがカーンと共同で計画したプレイグラウンドの模型から感銘を受けていたようです。ブランクーシにも影響されたとか。ああ〜、イチイチ納得。(クリストフ・ブロックハウス著『パブリック・コミッション ー ダニ・カラヴァンによるサイト・スペシフィックな環境芸術』本展覧会カタログ所収)単に作品のモノグラフというよりは、一人の作家の思考の個人史のようでおもしろかったです。

それから、ちょうど90年代にカラヴァンが来日して各地で大きな巡回展が開催された際に、個人的には国内にいなかったせいもあり、この頃から近年まで日本の各地にいくつもの恒久作品が制作されたことを知りませんでした。ドイツでみていた作品とは、どうもずいぶんと印象が違う気がするので、そのうち現地それぞれに赴いてみたいと思いました。

それと、ぜひ観てほしいのは<パサージュ、ベンヤミンへのオマージュ>(ポルトボウ・スペイン、1990-94)のための部屋。(1940年ベンヤミンは、ナチスの手から逃れるべく合衆国への亡命を試み失敗、ポルトボウで自殺。この作品はベンヤミンの墓の近くに設置されている。)作品のためのドローイングが観れ、壁にはベンヤミン最後の重要な論考『歴史の概念について』からの引用があります。キャプションによるとドローイングは、デュイスブルグ市のレーンブルック美術館(Wilhelm Lehmbruck Museum, Duisburg)だったようですが、(うう〜んカタログ見直したが出ていない。うろ覚えて書いてはいけないが)ドイツの美術館に所蔵されているというのが因縁、いや、さすが戦後のドイツだと思います。


「この文化財と呼ばれるものが文化の記録であることには、それが同時に野蛮の記録でもあるということが分ちがたく付きまとっている。」(『歴史の概念について」VII、「ベンヤミン・コレクション I 近代の意味」ちくま学芸文庫、1995)


ちなみにイスラエル(イスラエル美術館)にはパウル・クレーの「新しい天使(アンゲルス・ノーヴス)」(ベンヤミンが購入して私蔵していたもの)がありますが、テル=アヴィヴでの展示では、この作品が一緒に展示されていた?らしい、展示会場に同作品がおかれている写真がありました。

マルティン・グロピウス・バウで開催された展覧会についてのヴィデオ。
カラヴァン自身のコメントが聞けます。(学芸員のコメントはドイツ語、カラヴァンは英語)
Video: Dani Karavan – Retrospektive Martin Gropius Bau
(Dani Karavan, Berlin, 2008.03.15)

投稿者 raumraum : October 13, 2008 09:18 PM

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